はじめに
私が海外への移住を目指すという選択をした時、長女が11歳、次女は9歳でした。それは私と妻にとって大きな決断でした。海外に生活の拠点を移すという選択は今となっては自然なものだと言えるのですが、当時は「えいや」と乾坤一擲の決断をした記憶があります。決断した当初はまだ移住の大義名分も今ほど明確ではなく、計画もやるべきこともぼんやりとしていたため、不安があり、決断に勢いというか思い切りが必要だったのだろうと思います。
冷静になってみれば、現状を把握し、目標を定め、そこに至る道筋を描ければあとはそこに向けてやるべきことを淡々とこなすだけです。そして行動を移す段階では自分の行動の結果が目に見えるにつれて次第に不安は消え、むしろ自信がわいてくるものだと思っています。
私と同じように海外移住を検討していたり、将来への漠然とした不安を抱えている人に向けて、私が自分自身の経験を通じて考えてきたことを共有し、もしそれが皆さんの今後の意思決定に少しでも役に立てば幸いと思い本稿を執筆することにしました。
「父が娘に語る経済の話」(ヤニス・バルファキス=著、関美和=訳、ダイヤモンド社)という本で著者が娘に語るようにして経済の話をかみ砕いて解説していたのがとても分かりやすく感心したので、私もこれを参考に海外移住をするという選択肢について娘に語るつもりで記事を書いてみたいと思います。
なお、私自身についていうと本稿執筆時点では日本企業の海外駐在員としてアメリカに駐在して4年目で、一年以内に退職、その後にある国への移住を目指して準備をしている最中です。
本稿執筆時点ではまだ海外移住をしたわけではありませんのでそのノウハウについて語ることはできません。しかし、海外移住をすると決めた理由や海外移住とは人生において何を意味するのかという事についての私自身の考えについては読者のみなさんの参考になる執筆ができるのではないかと思います。今後、海外移住した暁にはその体験談やノウハウなど具体的なことも執筆したいと考えています。
それでは前置きが長くなってしまいましたが、始めていきましょう。
海外に住むというのは一大決心がいることか
君が日本からアメリカに来てもう3年が経つね。そんな君に聞いてみたいんだけど海外に引っ越しをすると聞いたらどう思う?小学校3年生からアメリカに住んでいるから日本以外の国に住むという事をいまさら特別なことだとは思ってないよね。
30年以上も日本で暮らしてきたお父さんにとっては限られた期間とはいえ、未知の国アメリカに駐在するというのは大きな決断だった。
でもふたを開けてみれば君は初めのうちこそ未知の言語に苦労していたけれど、一年もすると学校では日本人やアメリカ人や韓国人の友達を作り、英語が話せないお母さんもスーパーで何の不自由もなく買い物をしているよね。
案ずるより産むが易し。なんだかんだ言ってノープロブレムでやってこれたわけだ。生活できる収入源さえ確保されていれば言葉なんて生活するにあたってはそれほど大きな壁ではないんだね。
ところが、だ。君もすでに知っている通り、お父さんが次に考えていることは海外移住だよ。今の生活は会社が身分や給料を保証してくれている海外駐在だけど、今度はお父さんが自分で現地で就職をしなくてはならない海外移住だ。つまり、家族全体にとっては生活費を賄える保証がないという点が今とは全く違うんだ。仕事があるのが当然の状態で海外に住むのと、現地で就職活動をする(そして就職できたとしても簡単に解雇されてしまう可能性がある!)ことを前提に移住を検討することは全く別の事だよ。移住先で生活費を賄えるだけの収入が得られるかどうか、収入が得られるようになるまで今の蓄えで足りるかどうかという事が実はお父さんはとても不安だった。
だから生活費は毎月どれくらいかかるか、今の蓄えで無収入でどれくらいの間生活できるのか、現地での就職活動に必要な能力はどんなものか、その能力を習得するのにどれくらい時間がかかるかと言ったことをできるだけ現実的に考えたんだ。
そうすると逆にできないはずはない、とまでは言わないけどかなり不安を払しょくすることができたよ。どんな仕事に就きたいかを決めたら、それに必要な能力が分かったからその能力を習得する道筋が分かったんだ。海外移住前の準備段階でどの程度のスキルを身に付けて、移住後にどういう道筋で就職活動をするかとかそういったことだね。
不安があるというのはわからないことがあるからなんだよね。だからわからないことを具体的にしてその答えを見つけていくことで決断に近づいていくことができるよ。そこまでくればあとはひたすらやるべきことをやるだけだからね。
無理して思い切って決心するのではなく、一つ一つ不安を取り除いていくことで当然の決断だと思えるようになるよ。これは海外移住だけではなくて君が将来いろいろなことを決める時にも使える考え方だと思うよ。
どう生きるかという軸
どこに住むのかという話に移る前に考えてみて欲しいことがある。それは君自身がどう生きていきたいかということだ。これはなかなか壮大なテーマで実はお父さんも明確な考えを持ったのはつい最近なんだ。
実は多くの大人は自分がどう生きたいかという明確な軸を持っていない。お父さんの周りにもなんとなくこの会社で働き続けているという人がとても多いんだ。みんな会社に入った時はこの会社で出世したいとか、世の中に貢献したいとかキラキラした思いを持っていたはずなのに不思議だね。
「こういう風に生きたい」、「今の人生を変えたい」と漠然と思っている人はいるんだけど、具体的に何か行動を起こしている人はごく一握りだと思うよ。この会社で働くのが好きで好きでたまらなくて、「ずっとここで働きたい!」と思っている人ももちろんいるよ。今の仕事に満足してイキイキと仕事をしているなんて、それはとても素敵なことだね。でもそういう人はお父さんが見る限りほんの一握りなんだ。
好きなことを仕事にするという順番
どう生きるか、言い換えれば何を仕事にして生きていくかを考えるのに一番いいのは自分の好きなことを見つけることだよ。もしそれが難しいなら自分の得意なことや気が付けばやっていること、時間を忘れて取り組んでいた経験があることを探してみるといいよ。それが分かれば次はどうやればそれを仕事にできるかを考えてみよう。求人票のリストから仕事を選ぶのではないよ。自分のやりたいことを仕事にするにはどうすればいいか。好きなこと、やりたいことが先、それをどうやって仕事にするかがその次。この順番が大切だからね。
自分の好きなことややりたいことがわかれば、それを達成するのに一番良い環境が得られる場所に住めばいい。どう生きるかという軸がどこで働きたいのか、どこに住むのかという事を考えるときの前提になるんだ。
好きなこと、やりたいこと、得意なことから決めた仕事ではない仕事に就くと、いつの間にかどう生きたいかという軸のない、だらだらとした人生になってしまいやすいと思うよ。
日本では大学生から新社会人になる時の就職活動は、仕事を選ぶのではなく会社を選ぶことが多いんだ。仕事の中身は会社に入ってから割り振られた部署によって決まる。働くうちに仕事にやりがいを見出すようになればいいんだけどね。もし仕事ではなく会社を選ぶような就職活動をした場合、どんな仕事が割り当てられるかはガチャみたいな運ゲーだと言わざるを得ないんだ。だんだん仕事が好きになってきたという人もいるとは思うけど、どう生きるのかという軸をしっかりさせようと思うと、仕事はガチャで決めるのではなく、好きなこと、やりたいこと、得意なことから能動的に選ぶのがとても大事だよ。
日本の現状と将来
小学3年生からアメリカで過ごしてきた君にとっては日本もアメリカもどこに住むのかという選択肢の一つに過ぎないということは当たり前かな?でもお父さんも含め多くの人にとっては、生まれ育った日本に今後もずっと住むことこそが当たり前であって、日本に住むことを海外に住むことと同等な選択肢の一つとして捉えることはきっとなかなか難しいんじゃないかと思う。
そこで、君が生まれ育ち、そこに住むのが当たり前だった日本という国について少し考えてみよう。
日本の人口動態
日本の人口は近年減り続けているのは知っているかな?実は2004年をピークにほぼ一貫して減り続けているんだ。逆にそれまでは日本は多少の増減はあるものの一貫して人口が増え続けていたよ。でも、人口が増え続けていたと言っても2004年まで子どもがどんどん生まれて増え続けていたわけではないんだ。
実は子どもが生まれた数は2004年よりずっと前から減り始めていた。一年に生まれる子どもの人数を出生数というんだけど、1971~1974年ごろのベビーブーム以降はほとんど一貫して出生数は減り続けてきたんだ。1974年なんてずっと前のことだね。そんなに前から出生数が減り続けてきたのでいつかは人口が減少に転じることもずっと前から分かっていた。
それにしても出生数はそんなに前から減り始めていたのに全体の人口が減り始めたのはその30年も後の2004年なんてずいぶんタイムラグがあると思わない?これは日本人の寿命が延びてきてなかなか人が亡くならなくなったからなんだ。生まれる数は早くから減っていたんだけど、寿命が延びたので全体としてはなかなか人口が減少に転じなかったということだね。
このことをもう少し踏み込んで考えてみよう。1974年以降出生数が減り続けているのに人口が2004年まで減らなかったという事は、それだけ高齢者の割合が多くなってきたという事だよね。子どもから働く世代に仲間入りする人の数より、働ける世代から高齢者の仲間入りになる人の数の方が大きいという言い方もできるね。
そして日本は今も出生数は減り続けているし、今後も減り続けると考えられているんだ。子どもはいつか成長して次の子どもを産む年齢になる。出生数は1974年から減り続けているから、成長して子どもを産む人になる数もその分減り続けていることになる。子どもを産む世代の人口自体が縮小傾向にあるという事だね。
戦後までの日本はお見合いや親族の紹介による結婚が多かった。現在はそうではなく、自分で結婚相手を見つけなければ結婚できない社会になったという変化が婚姻や人口減少につながっているという見方があるんだけど、それは一理あるかもしれないね。
今さらお見合い結婚が社会現象になって婚姻が急激に増えるとは考えにくいし、今後出生数が減少するというトレンドは変わらないだろうね。
みんな当然1年で1歳年を取るし、さっき言ったように出生数が増えるとも考えられないから人口の予測は残念ながらほぼ確実に当たると考えられるのが妥当なんだ。
経済とは
日本の人口が今後どういう推移をたどるかは分かったかな。人口が変わるとそれに伴って変わるものがある。それは経済だ。
経済って何のことかわかるかな?お金に関すること?さすが鋭い!経済というのは生活に必要なモノを作ったり運んだり消費したりする活動やその関係を意味する言葉だよ。
例えば君がお金を払って靴を買ったとしよう。そして買った靴を受け取る。この時、靴屋さんと君の間でカネとモノが交換されたから「経済が存在している」と言える。もう少し考えてみよう。靴屋さんは靴を売るのが仕事だけど、もとはと言えば靴を作る靴メーカーから靴を仕入れている。靴メーカーから仕入れる時には靴屋さんは靴メーカーにお金を払っている。だから靴屋さんと靴メーカーの間にも経済が存在している。
靴メーカーは靴屋さんに靴を納品するのだけど、いろいろな靴屋さんに靴を卸しているので全部を運ぶのは大変だ。だから、運送業者さんに頼んでお金を払って靴を靴屋さんまで運んでもらっている。ここでもモノとカネが動いているので靴メーカーと運送業者さんの間にも経済が存在している。さらに靴メーカーは靴を作るための革やゴム、布を仕入れているし靴を作る道具や機械も仕入れているし、その道具や機械のメンテナンスもしなくてはならない。よってここにも経済が存在している。ここに出てきた靴メーカーや運送業者さん、そして材料の業者さんや道具や機械をメンテナンスする人などには給料が支払われる。そしてそのお金でその働く人たちの需要が満たされていく。つまりありとあらゆるところに経済が存在している。人がいるところには必ず経済が存在しているという言い方もできるね。
今後の日本経済の大きなトレンド
人がいるところには経済が存在していることが分かった。そして日本の人口は今後縮小していくことも分かった。ということは・・・?そう、人口の減少に伴って日本の経済も長期的には縮小していくことが想像できるね。このことを具体的な例で考えてみよう。
さっきの靴屋さんの例で言うと、靴屋さんは靴メーカーから仕入れる値段より少し高い値段で君に靴を売る。その差額が靴屋さんの儲けになるわけだね。その儲けの部分から靴屋さんは従業員に給料を支払う。ほかにも電気代とかの必要経費をいろいろと払って、それでもまだ余った分のお金があるとそれは靴屋さんの余剰資金になる。余剰というのは余っているという事だね。その余ったお金は、靴屋さんを開いたときにお金を出してくれた人に還元したり、あるいは新しい靴屋さんの店舗を開いたりするために貯めておいたりする。
こうやって余ったお金を使ったり貯めたりするのだけど、その余剰の分こそが靴屋さんが靴を売ることの付加価値という事になるんだ。つまり、靴屋さんは単に右から左にお金と靴を移動させているのではなく、君が靴を買うことができるような機会を提供するという社会貢献をしている。仕入れた値段より少し高い値段で売ることができるその差額の分は、社会に貢献をした付加価値の分だという事だよ。
付加価値が余剰資金となり、その余剰資金はお金を出してくれた人に還元したり新しい店舗を開くために貯めておくんだったね。還元されたお金はまた別の会社に投資(お金を出すこと)されたりお金を出してくれた人自身が使ったりする。靴屋さんが貯めた余剰資金を使って新しい店舗が開店すればよりいろいろなところで靴が買えるようになるので販売機会が増える。販売機会が増えるという事は付加価値の提供機会が増える事だから、また余剰資金が増える。その余剰資金をまた使ったり貯めたりして・・・という具合にこの循環を繰り返して企業は成長していく。
こんな風に社会貢献の結果で得られた付加価値は余剰資金となり、その余剰資金はまた新たなことに使われていく。こういう経済の循環があるんだね。
だから君は靴屋さんに払うお金は靴屋さんがメーカーが仕入れたお金より高いお金なはずだ。これは靴屋さんが靴を買うことができるようにするという付加価値に対して対価を払っていることになるんだよ。
そして日本の人口は減少していくんだったね。人が少なくなっていくという事は靴が欲しいと思う人の数が少なくなっていくことを意味している。すると靴屋さんは売れる靴が少なくなるので仕入れる靴も少なくなる。運送業者さんが運ぶ靴の数も少なくなるし、原材料の業者さんが供給する材料も少なくなる。つまり動くモノとカネの量が少なくなる。これは靴とそれに対応するお金が右から左に動く量が少なくなると同時に、靴を買えるようにするという付加価値が生まれる機会そのものが減ることを意味している。
お金が循環することで会社が成長する、消費者の利便性も増すという大きな経済の循環が人口減少によってブレーキがかかっていることがわかるね。
人口減少社会という長いスパンで考えていったときにこのモノ、カネの動きが鈍くなっていく、生み出される付加価値は少なくなっていくという大まかなトレンドがあるという事を頭に入れておこう。
ここに住めば一生安泰なんてない
ここまで、どう生きるかという軸というお父さん自身の話(ミクロな話。森の中の木)と日本の長期的な展望という大きな話(マクロな話。森全体)について見てきたよ。
おさらいすると、どう生きるかという軸を持つには好きなこと、やりたいこと、得意なことをどうやって仕事にするかを考えるのがいいという事だったね。日本の長期的な展望は人口と経済は今後縮小していくという話だったよ。
さて、問題は好きなこと、やりたいこと、得意なことを仕事にする場所として今後人口や経済が縮小していく場所を選ぶのが良いのか、という事だ。
頭のいい君は先回りして「わかった!今後人口が増えて経済も成長していく国の方が仕事が増えていくから、そういう国に行くのがいいんだね」と言うかもしれない。確かにお父さんが言いたいのはそういう方向の事なんだけど、あまり結論を急がないでほしい。
確かに日本は人口が少なくなっていくし経済も縮小していく。それでも2050年になっても9,000万人以上の人口があると推計されているんだ。実はこれはひとつの国としては世界の中でもかなり大きい規模の部類なんだよ。つまり今後縮小していくからと言ってすぐに経済が破綻するとか、そういう話では全くないんだ。
日本にはまだまだたくさん仕事があるし、住む場所を地方に選べば住宅費や食費と言った生活費がかなり抑えられる。だから給与水準は欧米に比べて低いけど、より生活費の低い地方に生活拠点を選べば十分に余裕のある生活は可能なんだ。
だから、単に余裕のある少しリッチな生活がしたいというだけなら海外移住を考える必要はないと断言できる。物価や家賃の安い地方への移住を検討するだけでも十分と言うのがお父さんの考えだよ。実際、海外移住を決める前は北陸地方や四国地方の地方都市への移住も検討していたからね。
じゃあ、なんで海外移住という選択肢を視野に入れたのか。いよいよ本格的に本題に入っていくね。
それは、ずばり、君や君の子どもたちの世代のことまで考えた時に、君たちが選ぶ様々な選択肢、例えばどこに住むとか、どんな仕事に就くとか、どんな人と結婚するとかそういう選択肢をなるべく広くとれるような人生を過ごすきっかけを掴ませてあげたいという思いなんだ。そしてそれをするのがお父さんの役割、だと今では思っているよ。単なる将来の金銭的な不安だけの話ではないんだ。
何度も言うけど、日本の人口は減り続け、生み出される付加価値の総量は減り続ける。でもお父さんや君の世代はまだまだ大丈夫だ。住む場所を選べば十分余裕のある生活もできる。でも、収入は先細りする中で徐々にジリ貧っていうのかな、時間がたてばたつ程、だんだんと生活に余裕がなくなってくると思うんだ。
そして、君の子どもやその子どもの世代になればきっとお父さんや君よりももっともっと金銭的な余裕がなくなってくるんじゃないかというのがお父さんの予想だよ。
今回は話を簡単にするためにここまでは触れなかったけど、現役を退いた高齢者世代の介護費や生活費の一部の負担も実は現役世代が担っているから、高齢化が進めば進むほどこの負担も今後より大きくなっていく。だから世代が進むほど金銭的な余裕はなくなっていくというのも固い予想だと思うんだ。
だから、普通に就職して普通に生活していれば給料が国の経済ともに自然に上がっていくことが期待できる、その結果、金銭的なことを理由にいろいろな人生の選択肢を狭めなくて済む、そういう環境をお父さんが手に入れてその環境をバトンとして君に渡したい。これがお父さんが海外移住を考えている核となる部分なんだ。
でも勘違いしないでほしい。実はどこに行っても「ここに住めばずっと安泰」なんていう場所は世界中どこにもない。お父さんがより良い環境をバトンとして渡したいというのは一生安泰な環境を君たちに渡したいということではなくて、「より良い場所を求めて動いた」という前例を作ってあげたいという事なんだ。
「海外移住をしたからもう安心」ではなく、海外に飛び出ていくことに慣れて、良い場所を求めて行動を起こし続けるというようなメンタルモデル、つまり人生の判断基準を得て欲しいというのが究極的なところなんだ。
ゆっくり沈む豪華客船と不安定な脱出用ゴムボート
実はお父さんはこのことについて、ゆっくりと沈んでいく大型の豪華客船からゴムボートに飛び移って脱出を試みているイメージを持っているよ。
今乗っている船(日本の事だよ)は残念ながら人口減少という穴が開いてしまった。とはいえ、大きいし沈んでいく速度はゆっくりだから、今すぐ逃げる必要はないんだ。お父さんが生きている間ぐらいは沈まない。君もかなり高齢になるまでおそらく大丈夫。でもゆっくりだけど確実に沈んでいて誰もこの流れを止めることはできないんだ。そしていつかはほとんどの部分が海の下に沈んでしまう。(それでも大きい船だから全部が海の下に沈んでしまうということはなくて一部は海面上に残ると思う。たぶん・・・)
住むところを選べば日本国内でも十分余裕ある生活ができると言ったよね。これは豪華客船の中で前の方に移動するか、後ろの方に移動するか、というぐらいのことなんじゃないかと思うよ。ゆっくり沈む船だから、その船のどこにいるかでどれくらい生き延びられるかはかなり違うんだよね。生活費を抑えられる地方に生活拠点を選ぶというのは、沈みゆく豪華客船の中で少しでも沈まない方に移動しているようなイメージかな。
ここでお父さんが思うのは自分の世代だけ生き残ればいいから日本の地方に移住すればいいじゃん、ということではなくて、いずれ沈むことが分かっているなら、今はまだ大丈夫だけど今のうちに君たちの手をとってゴムボートに飛び移って脱出を図りたい、という事なんだ。
ゴムボートは小さくて安定性に欠けるから、お父さんと君たちの事だけを考えるならゴムボートに飛び移るよりも豪華客船に残っていた方がきっと安全だ。
一方で豪華客船の方はと言えば、時間が経つほど浸水が進んで移動できる場所が限られてくるはずだよね。つまり、今は日本のどの地方に行くかの選択肢がたくさんあるけど、将来的には生活費を抑えながら利便性も確保できる理想的な地方都市というのは限られてきてしまうということだよ。そのころにはほかの乗客が先に脱出してゴムボートも残っていないかもしれない。つまり、今は門戸が開かれている海外の移民受け入れも狭き門になっていくかもしれないし、円と外貨の価値の差が開いてしまって日本円でせっかく貯めたお金が海外ではあまり価値がなくなってしまうといった理由で海外への切符を手に入れるのが難しくなっているかもしれない。
だから今こそ多少の危険を伴っても思い切ってゴムボートに飛び移る価値があるというのがお父さんの考え方だよ。小さいうちにリスクを取って将来の大きな不安の芽を摘んでおく作戦と言えるね。
そしてさっき言ったようにゴムボートに乗りさえすれば安泰という事もないと思っているよ。だから一生安泰な別の豪華客船を探すというよりは、状況に応じて他のゴムボートとか漁船とか、時にはいかだとか、気軽にぴょんぴょん乗る船を飛び移っていけるような身軽さがいるんじゃないかと思うんだ。
身軽さを手に入れるという事についてはまた別の機会に話そうね。
父が娘に語る日本人のための海外移住論1(概論)まとめ
ここまで小学生の娘に父の考え方を語るという体で私が考えを書いてきました。ここまでの内容を簡単にまとめたいと思います。
海外に住むことは案ずるより産むがやすし
不安があるのはわからないことがあるから
やるべきことをやっていればむしろ自信がついてくる
好きなこと、やりたいこと、得意なことを見つけ、それを仕事にする方法を考える
日本の人口は今後減っていく
日本の経済は長期的には縮小していく
これに乗れば一生安泰という豪華客船はない
自分の世代の事だけを考えるなら日本の地方移住で十分余裕のある生活はできる
時間が経てば経つほど海外移住をしにくくなる可能性がある
海外移住をしたという前例を作ることが子どもにバトンを渡すことになる
一生安泰な国への移住を目指すのではなく、状況に応じて動ける身軽さを手に入れるべき
この海外移住論1では海外移住に対する私なりの考え方とその背景を概論としてまとめました。今後は、各論として各項目の詳細や移住した暁にはそのノウハウやスキルなどについても執筆する機会があればと考えています。
最後までお読み頂きありがとうございました。
*1:
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-01-07.html
*2:
https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf
*3:
https://www8.cao.go.jp/kourei/kou-kei/24forum/pdf/tokyo-s3-2.pdf
*4:実際には海外からの旅行者や外国への輸出といった海外とのやり取りの結果、国内で生み出される付加価値があるため、国内総生産が人口減に伴ってマイナスになるというわけではありません。国内での消費量現象に伴って付加価値を生み出すことが難しくなっていくという事をわかりやすく説明するために、このような説明になっています。海外からの旅行者や外国への輸出と言った海外とのやり取りを日本経済の成長の原動力として育てるという考え方を否定するものではありません